その瞬間

音速の貴公子。
その名から思い浮かぶ、一頭の駿馬と一人の英雄。
悲運の名馬、サイレンススズカ。
そして本家本元、"Genius"アイルトン・セナ。


ある人にとってのその瞬間、みたいなもの。


当店をよくご利用くださるお客さま、菅さん。
昨年の12月に入った頃でしたでしょうか、箱を片手に「新作できたでー」とご来店くださいました。
箱の中からアイルトン・セナ。


菅さんは「となりの人間国宝さん」に認定された方で、「ココイロ」にもご出演経験のある加古川が誇る素晴らしき変人です。
次のターゲットは情熱大陸だそうです。

ただリアルに作っても、面白くない。
それじゃただのフィギュア。
でも、デフォルメした人形を作るのはとても難しいことだと思います。
特徴を炙り出し、エッセンスを凝縮し、削ぎ落とし、形にする。

何よりも、その人のどの瞬間を切り取り、保存するのか。


この人形は、生前最後の日本GPの表彰式でのセナ。
それが作り手である菅さんのセナです。
残念ながら、僕の中にセナはいません。セナの「その瞬間」が無いのです。あるとすれば、セナが命を落としたあのクラッシュシーン。

もう一つの音速の貴公子、サイレンススズカは僕の中にもいるのですが。


そういえば、菅さんが初めてご来店くださったときに仰った言葉が忘れられない。
ロートレックの絵を見ながら、「この絵の中のオッサン、立体化して人形にしたらどうなるかな…」と。

その言葉を思い出すたびに、デーモン小暮閣下が「お前も蝋人形にしてやろうか!」と叫ぶ姿が僕の脳裏を掠めるのです。