フィルター


当店にはいくつか、海外の小説があります。
ヘミングウェイとか、サリンジャーとか、ベタなところ。

いわゆる"古典"と呼ばれるものなので、一応読みはしたものの、モヤモヤします。
僕は本当にヘミングウェイを読んだのだろうか。
思うに、翻訳された小説というのは、半分は翻訳者の作品なのでは。

翻訳者というフィルターを通ったものから、その作家の生の機微に触れることができるのか、少し疑問です。
かといって、英文を読めない僕は、原文を読んでも辞書をめくりながら「書いてあること」を追うことに必死になるだけでしょう。
その作家の表現の特徴やニュアンスを味わうことはきっと出来ない。

それでも、生のヘミングウェイを感じたいと思うのなら、原文を読むということがベストだと頑なに思います。


フィルターを通すのはコーヒーも一緒。
そういう飲み物です。
「豆を食え」とは言いません。僕はたまに食べますが。


翻訳と近しいのは、「味の説明」でしょうか。

「このコーヒーはどんな味ですか?」とお尋ねいただくことがありますが、
時々言葉に詰まったり、言葉が見つからなかったり。

普段慣れ親しんだコーヒーがどんなものかで相対的に感じ方も人それぞれかなとは思います。
それでも、僕の感想の域は出ませんが、"今日のコーヒーはこんな感じ"という最大公約数的なご説明は精一杯いたします。

「酸味が苦手」など、好みや得手不得手はあるかと存じますので、お気軽にお尋ねください。


「飲んだら分かるわ」みたいな頑固で偏屈なことは言いませんし、
一昔前のソムリエのように「若草を吹き抜ける一陣の風のような…」なんてことも言いません。
簡単な特色だけお伝えします。

でも、お飲みになる瞬間にはできる限り僕が言ったことを忘れていただいて、フラットに飲んでいただきたいという気持ちはあります。


そういえば以前、村上春樹が訳したサリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」を読みましたが、村上春樹が訳すとなんでも村上春樹ですね。
昔、テレビ番組「THE夜もヒッパレ」で、尾崎紀世彦に好きな曲を歌われてしまったあの感覚。
今でこそ、尾崎紀世彦の凄味みたいなものはなんとなく分かるのですが、当時は「他人の曲をめちゃくちゃにするおじさん」程度にしか思っていなかったもので。

村上春樹ファンの皆さま、すいません。

タテイト珈琲店

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