ゲルマニウムな一日
花村萬月、ゲルマニウムの夜。
冷気が胸に刺し込むような一日に。
これまで読んだ文庫本の中で、このブックカバーが一番好きです。
タイトルから作家名、贅肉を落とし切った配色、全てが一つの作品のような美しさを僕は感じます。
閉ざされた修道院で繰り返される、生々しい性と暴力の描写。
そこから生まれる、文章への嫌悪感と爽快感。
「怖いもの見たさ」に似ています。
花村萬月の作品は、この"ゲルマニウムの夜"に端を発する「王国記シリーズ」しか読んだことがありません。
そして、王国記シリーズも、序章に過ぎないこの"ゲルマニウムの夜"以外は面白いと思ったことがありません。
オーケストラではよく、組曲の中の"序曲"だけを抜き出して演奏することがあります。
その感覚と同じなのかもしれません。
もっとも、それは組曲という作品への冒涜だと思いますが。
寒さが募り、少々物憂げな時間が増えました。
何か負の感情のようなものを抱くと、それを振り切るのではなく、もう一歩深い感情に触れたくなります。
悲しいときは、その悲しさよりもう少し悲しい音楽を聴きたい。悲しい物語を読みたい。
行き着くところは、「自分が世界で一番不幸だと思いたい」「悲劇の主人公になりたい」「浸りたい」という欲求です。
修道院という、僕が経験したことのない閉ざされた世界を旅する、閉塞感の塊のような"ゲルマニウムの夜"。
少し次元の違う閉塞感を味わえます。笑ってしまうくらい。
日常に身を置きながら、経験できない世界に引き摺り込んでくれるというのは、文学の力に他ならないと思います。
是非、こっくりとしたコーヒーとご一緒にどうぞ。
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